2009年12月24日

ザ・ムーン(2009年12月23日)

 息子の誕生日にポケモンのDVDを借りるついでに借りてきた。ドキュメンタリーのコーナーにさりげなく置かれているので、よっぽどのことがないと借りる人はいないかもしれない。だが、この映画は劇場公開時に「観たいなぁ」と思って忘れていた作品だった。

 「アポロ13」のロン・ハワード監督がプロデュースした作品なので、少なくとも「アポロ13」ぐらいは面白いはずと勝手に期待していた。いや、「アポロ13」を当時立ち見で観た時も、リアルタイムで事故報道をハラハラして見守った世代の僕としては、現実の凄さを伝え切れていない歯がゆさが残った。ドキュメンタリーを超える事は、いかなSFX技術が進歩しても難しいという当たり前の事を実感させた映画だった。

 当然ながら、この「ザ・ムーン」では1969年に現実に起きた〈奇跡〉をもう一度体験できるのだと思ったのだ。しかし、期待したほどには面白くない。本編を見たあとに、付録の予告編を見ると、「月に行った人々はいまだに13人しかいない。月に着陸した人(ムーンウォーカー)は9人しかいない」という魅力的なキャッチコピーが、これまた見事な映像とともに流れる。残念ながら本編では、このコピーがあまり活かされていない。

 ドキュメンタリーでもなく、事実に基づいたフィクションでもない。どちらかというと、NASAが提供した未公開映像をかき集めて、テレビ出演をOKしてくれたアポロの宇宙飛行士たちのユーモアとフィロソフィー溢れる言葉とともにコラージュした。当然ながら隠棲してしまったり宗教的な静けさを求めたりした飛行士たちの言葉は含まれない。

 編集の力で、あの1969年に起った〈奇跡〉が浮かび上がってくるとでも、この映画の監督は安易に考えていたのかもしれないが、どう考えても力不足の演出としか思えない。以前に読んだアンドリュー・スミス「月の記憶」のような、作家自身のとてつもない熱狂的な好奇心が、この映画の作者からは感じられない。
posted by アスラン at 13:14| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画(2000年〜現在) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月21日

NHKスペシャル「数学者はキノコ狩りの夢を見る〜ポアンカレ予想・100年の格闘」(2009年12月20日視聴)

 ポアンカレ予想が解けるまでの顛末を描いたドキュメンタリー。ナレーターが俳優の小倉久寛で、これは先日見た「リーマン予想」に関するドキュメンタリー「魔性の難問〜リーマン予想・天才たちの闘い〜」と全く同じだ。おそらくはスタッフも同じなのだからかもしれないが、展開まで双子と言っていいほどに似ている。

 まず難問と言われる「予想」があり、多くの数学者たちを悩ませ、少なからぬ天才数学者たちの人生を狂わせる。そして、やがては真の解決に辿り着く唯一の勝者が現れる。もちろん勝者にも苦難に満ちた人生があり、ドラマがあり、それをついに乗り越えた感動がある。となれば、「フェルマーの最終定理」や「リーマン予想」の時となんら展開が変わることがないので、定理そのものが取り替え可能な物語として新鮮味も薄れるというものだが、こと「ポアンカレ予想」に関する限りは、エンディングで読者(視聴者)の予想を大きく裏切る事になる。

 それは1時間50分の長尺のドキュメンタリーのラスト20分ぐらいで描かれることとなる。ペルリマン。旧ソビエトに生まれ、ロシアに生まれ変わってから数学者として世に出るためにアメリカ合衆国にやってきて、ついには「ポアンカレ予想」と出会う。前半では、トポロジーという革新的な数学が、従来の微積分を主流とした数学を凌駕する時代状況が描かれたのに対して、ペリルマン自身はポアンカレ予想を微積分の応用問題として取り組み、人々がトポロジーの熱からさめやらぬうちに、意表を突く形で解いてしまった。

 最後に人前で講演をした際に、誰もペルリマンのテクニックを理解できなかったというエピソードは、この「ポアンカレ予想」の歴史を彩るクライマックスとなった。

 ところが、その証明の華々しさの前後に来るはずの、人間・ペルリマン自身のドラマは、番組からは完全に欠落してしまう。なぜなら彼は数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞を辞退し、表舞台から完全に姿を消してしまったからだ。番組のタイトルは、「森でキノコ狩りをした姿を見かけた」という噂をもとにつけられた。

 彼の論文は通常のような学会誌への投稿という形ではなく、インターネットで流布される形で、静かに広まった。決して意を決して「世に問う」と言った意気込みも野心も感じられない。ただし、番組では、あれほど快活な性格だったペルリマンが、アメリカ在住時代、ちょうど「ポアンカレ予想」あるいはそれを解く鍵となる「幾何化予想」と出会った頃から人を遠ざけるようになったと、簡単に触れている。そこに僕らは、ペルリマンの見た「ポアンカレ予想」にまつわる闇を想像するしかない。
posted by アスラン at 19:38| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | TVダイアリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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