2008年09月18日

七人の侍(1954年)

 先日NHK-BSで黒澤明監督の代表作「七人の侍」を放映した。DVDレコーダーに予約録画したから、後日ゆっくりと見るつもりだったのに、息子が風呂からあがるのを待っている間にふとチャンネルを合わせると、宿場町で村人が侍を探す名シーンが飛び込んできて、思わず釘付けになってしまった。おかげで、子供を寝かしつけたあとで尻切れトンボになった半端な気持ちを満足させるために、端折りながらだが最後まで見てしまった。

 映画が終わってからの解説コーナーで若い視聴者のコメントが紹介された。「私はまだ映画館で『七人の侍』を見たことがない。テレビで見ると画面の比率がテレビ用にカットされているので残念だ。」という意見だった。確かにエンディングで4人の侍が葬られた盛り土の墓が全部収まってない感じがするので、ひょっとしたら少し両端がカットされているのかもしれない。ただしシネスコで見た記憶はないので調べてみると、公開時点ではシネスコ技術自体が日本に入ってきていなかった(日本初のシネスコ映画は1957年だそうだ)。スタンダードサイズで撮影されているので、本来なら普通のアナログテレビの画面に収まると思っていたのだが、そうでもないらしい。いずれにしてもテレビでは迫力が半減するので、映画館のスクリーンで見られるに越したことはない。

 しかし如何に世界に冠たる記念碑的作品とは言え、50年以上も前の作品を「映画館」で見る事は容易ではないのが現実だ。コメントを寄せた若者にはご愁傷様と言うしかない。僕は幸いな事ながら映画館で見ている。しかも、この映画を見た事でその後の映画好きが決定的になった、文字通り記念すべき映画体験だった。

 もちろん公開当時は生まれていない。おそらくリバイバル上映ということで、当時の名画座ではなくロードショー館で上映された。記憶が定かではないが、今は無き日比谷映画かみゆき座だったと思う。小学6年の年だとすると1974年なので、20周年を記念してのリバイバルということで辻褄が合いそうな気がする。

 たまたま大阪に住む叔父さんが出張で我が家に泊まって、オフの日曜日に気まぐれに僕を映画に連れていってくれたのだろう。数年前にその思い出を本人にぶつける機会があったが、まったく記憶にないと言う。まあ、多感な少年の思い入れに叔父さんが気づいていた訳がないか。だから、どうしてこの映画だったのかはついにわからず仕舞いだが、この〈超娯楽大作〉ならば小学生の僕にも楽しめるとはずだと思ったのか。

 当然ながら今のシネコンみたいに全席予約などない時代だから行列に並んだ。通路を最高列近くの扉から入っていったが、叔父と僕が飛び込んだ時にはすでに席は埋まって立ち見は決定的だった。でも、この映画館は毛足が長い絨毯が通路に敷き詰められていたので、叔父さんは中央席の列の両側にある通路に座ってみることを選んだ。こんなところで見るなんて初めての経験でびっくりした。しかも座ってみればスクリーンは近くにあってかぶりつきの最高の席だった。

 「ド、ド、ドン、ド、ド、ドン」という低く重い太鼓とともに白く太い文字で出演者やスタッフの名前が右に、左に大胆に傾けて画面に映し出されたのを覚えている。実は映画の内容に小学6年生の子供がどう感動したか、それとも感動しなかったか、まったく記憶がない。いや面白かったのは確かだ。その記憶がなければ、さきほど言ったように映画を見ることが、言ってみれば「人生の幸せ」であるかのような日々を、その後送ることはなかったと思うからだ。でも、映画そのものの感動が封印されるよりも、「映画館で映画を観る」という体験にこめられた奇跡の方が、僕には重要だった気がする。3時間を越える大作のあいだに休憩が入るのも初めての経験だった。しかもスクリーンが「休憩」の文字を写しだして第一部が終わったのだ。

 そして、この日9月6日は黒澤監督の十回目の命日だった。十年前の今日、監督は鬼籍に入られ、十年後のこの日に僕ら親子は魚から姿を変えた女の子が少年に会いにくる映画を見ていた。津波の圧倒的なパワーにも負けない女の子と、それとは対照的な優しい心をもった少年とのドラマに胸がいっぱいになった。その夜に日本映画最高峰の映画を見た。この偶然が嬉しかった。映画は映画を呼ぶ。そして宗介少年が、少年の心を持ち続けた黒澤監督の魂を呼び寄せた。そう思いたい。

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posted by アスラン at 18:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 記憶の映画を探して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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