2009年04月02日

長靴をはいた猫(1969年)

 東映が「東映まんがまつり」という名称で子供向け・親子向けの企画を始めた最初の長編アニメーションだ。特に東映のオリジナル作品だけあって、当時の最高のスタッフが結集している。脚本には作家・井上ひさしが名を連ね、作画に「ルパン三世」ファーストで、その才能をいかんなく発揮した日本アニメ界のパイオニア大塚康生や、あの宮崎駿まで参加している。

 たとえば映画の後半で魔王ルシファの城の塔をのぼりつめるペロたちのアクションに次ぐアクションの連続は、宮崎駿のものというよりは、止め絵(紙芝居のように絵が静止しているシークエンス)を嫌って絶えず絵を動かし続けた大塚さんならではの作画だ。一方でローザ姫の清楚で端正ないでたち(声は「気になる嫁さん」の榊原ルミ)は、明らかに宮崎の「カリオストロの城」のクラリスの原点とも言うべきイメージを湛えている。

 という箔づけはもういいだろう。そんなエラそうな話はすべて後日知ったことだ。公開当時はまだ小学校低学年だった僕は、まだアニメという言葉が世の中に定着していない時代だったからこそ、子供向けの娯楽「まんが」に飢えていた。どん欲だった。

 アニメーションという言葉はあったが、テレビや映画館でやるアニメは紙媒体同様に「まんが」と呼んでいた。そのあたりの事情を名称に如実に反映した「まんがまつり」が、なんと今にいたるまで続いている事には感慨深いものがある。しかも、このイベントの顔にあたるロゴには「長靴をはいた猫」の主人公ペロの顔がイラストされているのだ。

 ストーリーそのものは民話からとられているだけあって、シンプルな出世譚であるが、それをドラマチックに肉づけした脚本がとてもよくできている。親の遺産から閉め出された3人兄弟の末弟ピエールは、偶然出会った猫のペロに助けられて、一目惚れしたローザ姫と結婚するために自らをカラバ侯爵と偽る。しかし、魔王ルシファが横恋慕してローザ姫を城へ連れ去ってしまう。そこからの展開がドキドキハラハラのサスペンスに満ちている。

 魔王ルシファは、あの「刑事コロンボ」の声でおなじみの名優・小池朝雄。尊大で残酷で、しかしどこか間が抜けているキャラクターを魅力的な声で演じてくれた。対するペロの声は石川進。この多才な人物は歌手でもあり声優でもあり、司会もこなせたマルチタレントだった。当時の朝に放映された「おはようこどもショー」は、子供にとって今のポンキッキーズとテレビ東京の朝の子供向けバラエティを足したような存在だった。その司会を努めていた彼の声は、親しみやすく非常にテンポがよかった。口八丁のペロには最適だ。ちなみに石川進は「ど根性ガエル」や「オバケのQ太郎」の主題歌を歌ったので、どんな声だったか思い出す人も多いだろう。

 ルシファに謁見したペロは、何にでも姿を変える事ができると豪語するルシファの言葉を逆手にとって、小さなネズミに化けた一瞬をとらえて魔王の力の根源であるドクロのネックレスを奪い、ルシファを慌てさせる。ここのやりとりはキャラクターのぶつかり合いと同時に声優の力量のぶつかり合いでもあり、見応えがある。中盤の名場面だ。

 その後、元の姿に戻ったルシファによってペロやピエールたちは城の外に追い落とされる。いったんは挫けかけた一行だったが、そこで初めて気の弱いピエールが自らの勇気を奮い立たせて、愛するローザを救いだそうと立ち上がる。ピエールの信念にペロも心を動かされて再び城を登っていく。それまでペロの活躍に感情移入してきた僕らが、ペロの背後でいいなりになってきた臆病なピエールの存在に注目する瞬間だ。「ドラえもん」ののび太を引き合いに出すまでもなく、普通のなんでもない少年少女が勇気をもって苦難に立ち向かう感動的なファンタジーの原型が既にここに描かれている。

 終盤になってピエールたちは、ルシファを滅ぼすには力の象徴であるドクロを日の光にかざす事だと気づく。ペロに協力するネズミの一家のおかげでローザ姫を逃がす事には成功するが、ピエールたちとルシファの攻防の最中に、ルシファのドクロがローザの足許に飛んでいき、ルシファはローザを塔の尖端へと追い詰める。逃げるローザ。追いかけるルシファ。それをさらに追うピエール、そしてペロ。このサスペンスが頂点に達した時、空の向こうには夜明けの兆候が現れてくる。ルシファは狂ったように力まかせに塔を崩そうとする。ルシファに先回りしてローザと合流したピエールは、倒れ落ちてゆく塔にしがみついたまま、ドクロを空にかざして「日の光よ」と声を限りに叫ぶ。

 今、ここに文章にするだけで、あのクライマックスの胸の高鳴りがこみ上げてくる。日本アニメ史上に燦然と輝く傑作だ。

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posted by アスラン at 02:14| 東京 ☔| Comment(1) | TrackBack(0) | 記憶の映画を探して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読んでいて楽しかったです。ありがとうございます。
Posted by なお at 2009年04月02日 14:56
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