2009年05月22日

チキ・チキ・バン・バン(1968年)

 今や映画の情報は、毎日のようにどこからでも手に入る。朝のニュース番組でも新作映画の紹介から先週末のランキングまで、事細かに教えてくれる。ハリウッドスターの来日風景も見せてくれる。雑誌では、特に「ぴあ」や「東京ウォーカー」のような専門誌に頼らなくても、様々な雑誌の誌面で映画情報が入手できる。そして、極めつけはPCや携帯からネットで検索すれば、予告編の動画まで見られる。

 ましてや、昔と違って「特別な娯楽」とも言えなくなった映画を観るために、わざわざ事前に下調べするまでもない。最寄りのシネコンに出向けば、何かしら好みにあった映画が見つかる。もっと付け加えると、半年も経てばレンタルできるようになるのだから、「ぜひ今観ておこう」などと今の人たちは考えない。ビデオやDVDの無かった60〜70年代当時の僕らの「ぜひ観たい!」という切実感を想像してもらうのは、難しいかもしれない。

 最近、新聞を取り出して家で読むようになって、ああそうだったなぁと思い出した事がある。昔は、新聞の紙面で映画館の上映スケジュールを確かめた。BSもなく地上波だけのテレビ版の下のスペースが定位置だった。まだ「ぴあ」などの雑誌が一般には普及していなかったから、僕らは新聞で上映時間を確認して出かけていった。テレビでも今のような情報番組はほとんどなかった(ように思う)から、新聞に大きく載った映画広告も貴重な情報源だった。

 もうひとつ情報源があった。銭湯だ。脱衣場の壁の上の方か、もしくはミニ日本庭園を気取った中庭の塀のわきに、近所の映画館のポスターが貼ってあった。風呂からあがってかなりのぼせきった体の火照りをさますために、裸のままじっと観に行けもしない映画のタイトルを眺めていた。

 「チキ・チキ・バン・バン」はおそらく新聞に大きく載った広告を見いだして、当時小学生になりたてだった自分が行きたがったのか、それとももうちょっと大きくなってからリバイバル上映に反応したのか。とにかく行きたいと言ってはみたものの、いつものように母からは「いいよ」という声は聞かれず、地団太を踏んだかどうかは記憶がない。踏む事も当時のお約束だったから、たぶん踏んだのだろう。でも結局忙しいの一言で片づけられた(はずだ)。それくらい、映画を見に行くということは覚悟を強いられるものだった。

 この映画の何に引きつけられたかと言えば、やはり子供向けの空想に満ちた展開だった。まだロボットアニメは誕生していなかったから、魔法のように海の上を渡り、空まで飛んでしまう設定の車「チキチキバンバン」は、僕の空想をえらくかき立てた。

 いまでこそ、子供だましの映像にしか見えない特殊撮影だったが、ふだん何気なく乗っている自動車が次々と変型するという発想がおもしろかった。それも、主人公の発明家に改造した自覚があるならともかく、困ったときに突如自らの形を変えて、主人公たちを助けてくれる。いわば知能をもったお供でもあるところが、今から考えるとなかなか可能性を秘めた物語だった。原作はなんとあの「007」を生み出したイアン・フレミングだ。こんな余技もできたのか。

 結局、映画館では観ることはかなわなかった。そのかわり、当時流行った主題歌をさかんに口ずさんだ。

「バンバン、チキチキバンバン、チキチキバンバン大好き〜」

というテンポのよい歌だ。オリジナルの歌に日本語訳をあてて吹き替えていた。

 後年、テレビでの放映を観たとき、チキチキバンバン号という名前が、エンジンの奏でるノイズから命名されているのを知った。でも、どうしても「チキチキ」には聞こえない。「ティキティキ」でもない。強いて言えば「シキシキ、シキシキ」とシリンダーが回転しながらこすれるような音が聞こえて、そのあとにエンジンの破裂音が「バン!バン!」と合いの手のように入る。ひどいポンコツ車だ。

 そのポンコツ車が夢のような車に変身するギャップが見どころなのは言うまでもない。が、あえて言っておくと、当時の映画やテレビドラマでは、至るところで車がエンストを起こしていた。それが次なる物語を生む小道具として使われていた。それくらい車は故障するものだった(ようだ)。「チキチキ」も「バンバン」も、エンジンの性能向上とともに死語となった。

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posted by アスラン at 12:23| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 記憶の映画を探して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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