2007年12月10日

フォロー・ミー(1972年)

 ロンドンの一流会計士の男がきまぐれで入った小さなレストラン。やせぎすでショートカットでエキセントリックな風貌の女の子が注文を取りに来た。中学生だった僕は深夜にたまたま観たその映画の中の女の子に惹きつけられた。決して美人とは言えない。神経質そうだが自分の意志は曲げない頑なさを持ち合わせ、はにかむ時にすてきな笑顔を見せる彼女がいっぺんで好きになった。いや、おそらく小さなテーブルの真ん中に置かれたキャンドルに、彼女が危なげな手つきでマッチを擦って火をつけるしぐさが永遠に僕の心に焼き付いてしまったのだ。

 彼女の名前はミア・ファロー。そしてその映画の監督はのちに知ったのだが、「第三の男」の名匠・キャロル・リードだった。「フォロー〜フォロー〜」と問いかける印象的な歌で始まるこの作品は、文字通り「私についてきて」と心から訴えかけるロマンティックな映画だった。

 会計士は彼女・ベリンダに魅せられて結婚をするが、内緒で行き先も告げずに出歩く彼女が浮気をしているのではと、私立探偵に素行調査を依頼する。私立探偵はいつもコートのポケットにお菓子のマカロンを持ち歩く変わった男・クリストフォルー。その日から彼はベリンダの後について行き先を調べる。

 そこでわかったこと。彼女は映画館でホラー映画の3本立てを観たり、公園でイルカのショーを観たり、植物園で美しい草木を愛でたり、夕日を観て心を奪われたりする一日をただ過ごしていたのだ。探偵は、彼女について回るうちに彼女の事が好きになってしまう。と同時に彼女のたとえようのない孤独に気づいてしまう。彼は彼女から身を隠す事が出来なくなる。ベリンダも毎日毎日ついてくるその男が気になってくる。

 ある日、いつものごとくホラー映画を観ようとする彼女に無言で別の映画館に来るように探偵は促して、ラブロマンスの映画を見せる。それから「僕についておいで」と合図して、探偵は自分が見せたい美しいものを彼女に指し示しながら前を歩く。それはロンドンの何気ない街の風景。変わった名前の通りの名前。ソルト(塩)ストリートに、グース(鵞鳥)ストリート。いつしか見せたいものがあれば、先に立って案内しながら無言でそれを指し示すというのが二人の約束になってしまった。

 そして木の垣根で出来た迷路に案内した探偵は、、先回りして迷路の真ん中の広場でランチの支度をしてベリンダを待ち受ける。驚き喜ぶ彼女だが、次の瞬間に自分が間違った事をしていると気づき去ってしまう。彼女が癒されたいのは会計士の夫なのだと探偵も気づいてしまう。彼女は結婚してお飾りになってしまった境遇に不満だったのだ。

 妻の口からこの数日間の話を聞き出した夫は、思わず探偵の事務所に乗り込んで詰め寄る。ところがベリンダもついてきて、夫が素行調査を依頼したことを知り、失望して家を飛び出てしまう。困り果てた夫はベリンダを探してくれと探偵に懇願する。夫の頼みを聞くというより、妻であるベリンダの孤独を埋めてあげるのは同じように孤独な心をもつ自分以外にないと知り、探偵はベリンダを探す。

 植物園で夕日を見ながら涙する彼女を見つけた探偵は、彼女のために夫との仲を取り持つ一計を考え出す。渋る夫に「最高の彼女を取り戻したければ僕を信じてやるんだ!」とマカロンが入ったコートを手渡して家から送り出す。夫が従う決まり事は、彼女のあとを追うこと。言葉を交わさないこと。彼女が指し示すものをただ見ること。遊覧船に無言で乗り込んだベリンダを白いコートを着た夫が追う。ポケットからマカロンを取り出して頬張りながら…。

 いまだに僕の記憶の中にいつでも取り出せるように大切に大切にしまい込んでいる映画だ。

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posted by アスラン at 01:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 記憶の映画を探して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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