2007年12月19日

女王陛下の007(1969年)

 僕はこの映画を高校生になってから観ている。それも映画館でだ。今の若い人にはちょっと想像がつきにくいかもしれないが、当時はまだDVDどころかビデオもなかったから、当然のごとくレンタルビデオ店などというものは街中に一軒もなかった。映画は映画館で観るかテレビの本放送で見るしかない。

 子供の頃は映画館に通うお金も知恵もなかったから、テレビで見られる映画がすべてだった。そういうニーズに応えていたからこそ、土曜・日曜の昼間には何かしらの映画が放映されていた。当時は深夜にテレビ放映がなかったので、古い映画は土日の昼間にやることが多かった。やくざ映画や戦争映画に混じって「007シリーズ」も繰り返し繰り返し放映され、ショーン・コネリー扮する初代ボンドが男臭さをぷんぷんと振りまくのを見ていた。子供の頃は何を見ても面白かったから、このシリーズも荒唐無稽なスパイ物として楽しんでいたはずだ。もちろん子供ながらに感じるボンドと美女とのベッドシーンも、未発達な少年の性になにごとか訴えかけていた(ように思う)。

 しかし、本当に007シリーズのファンになったのは本作からだ。そしてジョージ・レーゼンビーの2代目ボンドのイメージがあまりに初代とかけ離れているがゆえに、僕にとってはもっとも強烈な印象を植え付けられることになった。出会いがその後のつきあい方を左右するとすれば、本当に幸運な出会いだったわけだ。その意味では高校の友人に感謝しなければならない。この映画を教えてくれたのも「ワン・オン・ワン」を一緒に観た陸上部の友人だった。そして高校当時は新作とは言えなかったこの映画をみんなで観ることができたのは、名画座というシステムがあったからだった。

 今やロードショーを過ぎた映画はレンタルショップで借りて観るのがお約束だが、当時は〈名画座〉と呼ばれる映画館が古い映画を2本立てあるいは3本立てにして上映した。当時の決まりとして、公開されたばかりの映画は名画座にかけることが許されなかったから、公開から1年以上たった映画を新旧取りまぜて上映する。名画座と呼称される由縁だ。本作もそういった名画座の一つで友人たちと観たわけだ。

 陸上部の友人は観る前に見どころを熱心に説明してくれた。曰く、スイスの雪山を舞台に敵方の追っ手多数とボンドがスキーによるチェイスを繰り広げる。そのシーンがものすごい迫力だというのだ。しかもスキー板を片方失ったボンドが片足だけでスキーを続けるところに、超人的なヒーローぶりが描かれていて愉快だと言った。アスリートのはしくれで、自らスキーもたしなむ彼だからこその楽しみ方には、非常に説得力があった。

 スキーやボブスレーなどのスポーツを採り入れたアクションシーンの面白さに友人が惹かれた事は確かだろう。ただし今から思うとそれだけでなく、雪山のリゾート地を舞台にした007シリーズ屈指のロマンティックな内容にしびれたのだと思う。その点は僕も同感だ。何しろ美女たちを翻弄する魅力を持ち合わせた007が、本作では一人の女性を本気で愛してしまう。勝ち気な彼女の行動に振り回され、敵に捕らわれた彼女を助けるためにミッションに私情をさしはさみ、あげくに最後には結婚式まであげてしまう。これがマッチョなセクシーさが好評だったショーン・コネリー版007に続いて制作されたわけだから、当時異色作と言われたとしても致し方ない。

 レーゼンビーの2代目ボンドは不評だったため、この1作のみで降板した。だがイアン・フレミング原作の007シリーズを読んでみると、レーゼンビー版007こそが歴代ボンドの中でもっとも原作のイメージに近い。著者のフレミングが諜報部員時代の体験を基にして作り上げたヒーローとその物語は、映画のような荒唐無稽で超人的なスパイ活劇ではないのだ。だからこそ運命的な出会いを果たした彼女のために、諜報部員から足を洗うことも辞さない等身大のジェームス・ボンドを描いた希有な作品と言える。

 毎回脳天気と言えるほどにすべてが解決されるエンディングがお約束でありながら悲劇的な結末を迎えるのも、映画としての統一感よりも原作を重視した事の現れと言えるだろう。だからこそ僕は、この〈異色作〉を全面的に支持する。

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posted by アスラン at 02:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 記憶の映画を探して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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